top of page

29.だが、血に塗れようと

夜になった。
私は仮面を被り、黒の地味な服に着替えた。
里を出て2時間。そろそろ着く頃だ。
行ったからと言って何ができるわけではないが、リテンマ・スィアが能無しだというのなら私でも殺せるチャンスはあるかもしれない。
潮騒の音が聞こえ海の匂いがしてきた。
どうやら到着したろうだ。
 
月明かりで見る海はどこか儚げで美しかった。波の音が耳に響く。少し痛い、あの海の混じった感触の風が吹く。
潮のツンとした香りが私の鼻をついた。
私は崖を下り砂浜を歩く。私の足跡が砂浜に点々と残った。
靴に砂が入るが仕方がない。
このどこに人間たちがいるのだろう。打ち寄せる波の音以外なんの音もしない。
まさかもうリテンマ・スィアが来た後じゃないだろうな……。
どちらにせよ、誰にも見つからないように行動しなくては。
そう思った時だった。
 
「撃て! 」
 
その号令と共に破裂音が響き渡った。
独特の匂いと胴体に感じる熱さ。
 
しまった、もう見つかっていたのだ。
それも人間に。
 
「クソ! どこでバレたんだ……! 」
 
「どこの血族だ? 早く捕まえろ」
 
「いや、ここで殺した方がいい! 近づいたら何されるかわからねえ! 」
 
男たちの怒号が響く。
ああ……これが、人間の声か……。
さして幻獣とは変わらないんだな。
痛みを堪えながら顔を上げる。
そこにいたのは若い男たちだった。子供や女や年寄りは見当たらない。この近くの隠れているのだろう。
耳は丸い、髪は暗い色の者が多く思える。
単純に夜だからかもしれない。
 
これが、これが同族なのか……。
思い描いていた状況とは違うけれどやっと会えた。
 
「わ、笑ってる……? 」
 
「撃て! 撃って撃って撃ちまくれ! 」
 
再び破裂音が響いた。それも今度は鳴り止まない。
私めがけて沢山の銃弾が降って来た。
 
これは死んでしまうやもしれぬ。
傷はすぐに再生を始めていたがこのまま撃たれ続けたら追いつかなくなるだろう。
私が死ねばヨゼボ・フィースも狂って死ぬ。
あの獅子の男が人間に殺されるなんてと思うと愉快だ。
 
しかしここで死ぬわけにはいかない。
何故なら私は彼らにとっての敵でなく、本当の敵は別にいるからだ。
そのことだけでも伝えなくてはならない。
 
「再生してるのか……? 」
 
「殺せない……」
 
「……あの、少しいいですか」
 
痛みなどはとっくに感じない。
体が冷えて、熱くなって、また冷えて、の繰り返しだ。
しかしそれでも頭はぼんやりとしてくる。なんとか気力を振り絞って私が話しかけると、男たちは体を震わせた。
 
「私は……敵じゃなくて、他にいるんです……」
 
うまく声が出ない。早く説明しないといけないのに。
逸る気持ちとは反対に、私の舌はノロノロとしか動かない。
 
「……撹乱するつもりか! 殺せ! 」
 
「違くて……あなたたちの居場所はバレてるんです……逃げて……」
 
「誰がお前のいうことなど聞くか! 」
 
一人の男が私の腹に一発銃弾を、至近距離で撃ち込んだ。
全身に衝撃が走る。もう立っていられない。
私はその場に倒れこんだ。
 
「……やったか? 」
 
「再生し始めてる。化け物め。
一旦引こう。体制を整えるんだ」
 
こんな私も殺せないような武器じゃリテンマ・スィアは倒せない。
 
「逃げて……早く……」
 
私の言葉は彼らには聞こえない。
どうしよう、なんとかしないと。
そう思うのに体は動かず、私は目を閉じた。
 
 
 
体が引き摺られている。
 
目を開けてぼんやりと辺りを見る。どうやらここは森の中のようだ。ただ海の匂いが未だすることからそう離れていないことがわかる。
私の髪を掴んでいるのは誰だろうか。
 
「……なんでこんな……もう嫌になる……」
 
この声はリテンマ・スィアか?
何故私を……ああそうか、私を殺して闇の魔女にするのだ。
だがそうはさせない。
 
手を伸ばしてリテンマ・スィアの腕を掴んだ。そのまま捻りあげる。
 
「痛ぁ!
なによあんた! 目覚ましたの!? 」
 
彼女は私の頭を勢いよく離した。頭が地面にぶつかる。
 
頭が揺れるし、先ほどの傷も治りきっていないが立ち上がってリテンマ・スィアを睨みつけた。
 
「お陰様で」
 
「もうなんなのよ! なんであんたあそこにいたの! 話聞いてたのね!
あー! もう! 計画台無しよ! 」
 
彼女は癇癪玉を破裂させ、キイキイと甲高い声で叫んだ。
 
「その為に動いたんですが……」
 
「ああそうでしょうね!
でも私だって、人間を殺すつもり無かったわよ! 適当に嘘ついて手ぶらで帰るつもりだったのに……!
けどもういい。あんたに死んでもらうことにする。あんたの姉妹が死ぬほど嫌いだから丁度いいわ」
 
「……なんで? 」
 
「セルマ取られちゃったからよ! 」
 
「そっちじゃなくて、それは分かりきってるし。
人間を殺すつもりなかったって……」
 
リテンマ・スィアは鼻を鳴らした。
 
「私は……確かに能無しだって言われて苦労してるけど、でも闇の魔女を作るほどじゃないわよ。テインは操れる気でいるけどそうは思えない。あんなのもう作り出しちゃいけないわ」
 
案外まともだ。
私は自嘲する。
 
「なんだ、撃たれて損した」
 
「……損じゃないんじゃないかしら。
人間たち、どっか行ったわよ。逃げ出したみたい」
 
ああ、それなら良かった。
次、誰に見つかるか分からないがその僅かな間だけでも安全なら撃たれた甲斐がある。
 
「さて、じゃあ取り敢えずあんたには死んでもらうとするわ。
内臓を傷付けないと……闇の魔女は人間の内臓で作られるみたいだから、阻止しなくちゃね」
 
切り替えが早い。
私は咄嗟に体を離すが遅かった。腹に剣が突き刺さる。
さっきもそこ撃たれた……。
 
リテンマ・スィアは倒れる私の頭を掴んだ。また引き摺るらしい。
 
「ああもう! あんた重いのよ! 」
 
「35キロ。平均より遥かに軽いと思うけど」
 
「うわ、ガリガリじゃない! もっと食べなさいよ! 」
 
言ってること矛盾してないかこの人。
 
「で? とどめを刺さないの? 」
 
「ここじゃなくて、小屋があるからそこでね。ついでにテインに諦めるよう説得しなきゃだから」
 
「ちょっと寿命が延びたのか」
 
その間、音梨に謝罪の念でも送っておこう。
それから死んでしまうヨゼボ・フィースにも。
……いや、待てよ、このことは使えるんじゃ?
 
「あのさああの時、ヨゼボ・フィースとはなんの関係もないって言ったじゃん」
 
「ええ、それから私を脅したわね! 」
 
「私、ヨゼボ・フィースの番いだよ」
 
間髪入れず頭に衝撃が走る。
また私の頭を離したらしい。
 
「嘘でしょ!? 」
 
彼女は慄いた表情で私を見下ろした。
 
「少なくともフィース様はそう言ってる」
 
「それならどっかに番いの印があるはずだわ」
 
リテンマ・スィアは倒れこむ私の服に手をかけると遠慮なく引き裂いた。
なんてことを。抵抗する間もなかった。
それから私の体を観察する。
 
「肋骨浮いてる……あ、完治の呪い。なんかおかしいと思ったのよね。また傷付けなきゃ」
 
そう言った後私の体をひっくり返した。
乱暴だ。
私はお腹の傷を地面にしたたかに打ち付けた。あまりの痛みに声が出ないが、彼女は御構い無しだ。
 
「……これね、番いの印は。
……ああどうしよう。ヨゼボを殺したくはないわ」
 
リテンマ・スィアは戸惑っているようだ。
痛みを堪えながら彼女に笑いかける。
 
「……でしょ……? 」
 
「とにかく小屋に運んでから考えるわ……」
 
リテンマ・スィアは思い詰めた表情のまま私の髪を掴んだ。
他の運び方を知らないんだろうか。
 
 
小屋は、小屋というには余りにも簡素なものだった。
箱、の方が近いかもしれない。
リテンマ・スィアは私を持ち上げ腹に剣を突き刺し、壁に吊るした。
 
「これならあんた死なないわよね」
 
「普通なら死ぬけど」
 
そもそも死ななければいいというものではない。痛みで意識が飛びそうだ。
 
「手も縛っとこう」
 
彼女は強い力で私の手を縄でグルグルに巻いた。
死なないようにしたいのなら剣で突き刺す必要はなく、手を縛るだけでいい。
 
「死なないでよね」
 
「なら剣抜いて」
 
「あんた逃げそうなのよね。
じゃ、私はテインに話をしてこないとだから」
 
リテンマ・スィアは軽く手を振るとそのまま出て行ってしまった。
 
私は剣を睨んだ。
中途半端な位置に突き刺されたせいで、一生懸命背伸びをしていないと傷が広がってしまう。
私から流れ出た血が足元に水溜りを作って、それがツルツルと滑る。
拷問だ。
腹の傷はもちろん、縛られた手も背伸びし続ける足も全て痛かった。
 
目を閉じ耳をすます。
潮騒の音しか聞こえない。人は通らないだろう。
ここからどうにかして脱出せねば……。
 
その時、獣の咆哮が聞こえてきた。
 
そしてその一瞬後、小屋の扉と、その壁が吹き飛ぶ。
 
何事だと煙の間目を凝らしてその様子を眺めた。
煙が消えていき、小屋を壊した犯人の姿が現れる。
 
片腕のない獅子……ヨゼボ・フィースだった。
 
「……フィース様? 」
 
海の近いここに彼が来るのは難しいと思っていたのだが。そもそもどうしてここが分かったのだろう。
 
彼は私の姿を見つけるや否やすぐさま人間の姿を取り私のそばに駆け付けた。
 
「リオン! 何が……どうしてこんなことになってんだ!? 」
 
「さ、さあ……」
 
「引き抜くぞ」
 
その言葉と同時に剣が抜かれ、痛みが再び押し寄せてきて倒れそうになった。
ヨゼボ・フィースは力の入らない私の体を抱きしめる。
そうされると体の痛みが消えていくのがわかる。魔法を使って治癒したらしい。
 
「……服が血で汚れますよ」
 
彼は私を小屋の床にそっと座らせ、私の手を握った。きっとまだ魔力を送っている。
 
「どうでもいいこと考えてんじゃねえよ、何があった、何をしてた」
 
焦ったように私の顔を覗き込むヨゼボ・フィースに思わず笑ってしまった。
生きたいのだ、この男は。たくさんの命を奪っておきながら。
 
「あはは、夜遊び? 」
 
「ふざけてんじゃねえぞ! 俺の魔力がどんどん消えていくからお前が大怪我を、それも何度もしてるのが分かって、それなのにお前の姿が見えねえし……こっちがどんな想いしてたか分からねえのか!? 」
 
その怒鳴り声にビリビリと体が震えた。
獅子の血族の中ではあまり怒鳴り声をあげる方ではないが、それでもやはり怒りっぽいなと場違いなことを考えた。
いや、そんなことを考えている場合じゃないか。
無理矢理笑顔を作る。
魔力を吸い取ってしまったのは、私としても想定外のことである。
 
「すみません、またスアンさんに分けてもらってください」
 
「ヘラヘラするな! んなことどうだっていいんだ、お前が死ぬんじゃないかと……」
 
彼は言葉を切った。
そしてため息をつく。
 
「……お前は心配ばかりさせるな……。本当に……」
 
それから自分の上着を脱いで私に着せてきた。
そういえばリテンマ・スィアにボロボロにされていたのだった。既に私の血で汚れた上着だ。遠慮なく使わせてもらおう。
 
「いやあ、何度か道連れにしてやろうかと思いましたけど安心してください、実行してません!
完治の呪いが無かったら既に命は無かったでしょうけどさすが先見の明がありますねえ! きっとあと何百年も生きられますよ」
 
「お前は本当に馬鹿だな! 俺は自分の命が惜しくてそんなことしてんじゃねえよ!
お前は無茶ばかりしてすぐ死にかけるから完治の呪いをかけたんだ! 」
 
すぐ死にかける? そうだろうか?
今回を除けば今までに死にかけたのは10回もないだろう。
そう思って彼の青い顔を見つめた。
海が近いから苦しいのだろう。
 
「しかしフィース様、大丈夫ですか?
ここ海が近いし」
 
「全然大丈夫じゃねえよ。頭が痛い」
 
彼は頭を抑えて私を睨んだ。
前ほど酷くはなさそうだが、それでもやっぱり辛いのだろう。
 
「あらら。
助けに来なくても平気だったのに。殺されることはなさそうでしたから」
 
「どうしてそう極端なんだ。
あのな、死にそうじゃなくても、お前が大怪我をしてるって分かったら助けに行く」
 
ああそういえば、私が不死鳥の里を襲った時も、それから闇の魔女から攻撃を受けた時も、彼は私の怪我を治しに来ていたなと思った。
不死鳥の里に来た時は腕を自ら切断しているし、後者なんぞ私に水責めにされたあとだ。
 
「非合理的ですねえ。完治の呪いがあるからほっといて平気でしょうに。なぜ? 」
 
ヨゼボ・フィースは私の手を離すと、自分の額に手を当てため息をついた。
 
「……鈍感……」
 
「は?」
 
彼は私の顔を覗き込む。緑色の目に私の影が映る。
真剣な顔だなと思った。
そんな顔したヨゼボ・フィースが低い声で囁く。
 
「リオン、お前を愛しているからだ」
 
あり得ない言葉に暫く頭が動かなかった。
あい……なんて?
私が首を傾げると彼はまたため息をついた。
 
「これだから言いたくなかったんだ」
 
呆れたように言うが、そこには失望の響きがあった。
……いや気のせいだろう。
 
「番いって恐ろしいですね。思想まで歪められるとは」
 
「番いかどうかは関係ねえよ」
 
「もしかして冗談ですか? 私が言うのもなんですけどこんな状況で言う冗談じゃないですよ」
 
「お前は人の気持ちを踏み躙る天才だな。凄いよ」
 
彼は嫌そうに顔を顰めた。
冗談では、ないらしい。
だがとてもとてもこの男が私を愛しているとは思えない。
最初の邂逅から今の今までそんな素振りは一切見せなかった。むしろ私はいつこの男に殺されるのかヒヤヒヤしていた。
 
「なんか……勘違いじゃないですか? そもそも私はあなたと番いであるということも、あなたの勘違いだと思ってますし……」
 
「まだそんなこと言ってんのかよ」
 
ヨゼボ・フィースは呆れた顔で私を見たが、納得できないのだ。
番いがどんなものか知らないが、闇の魔女に囚われたボワーリュ・ポーポフィはその番いを失って狂ってしまった。私は例えこの男が死んでもああはならないどころか喜びさえする。
この男に愛を感じたこともない。
 
「なあ、本当に分からねえか? 俺がお前の番いだって」
 
「分かりませんよ」
 
即答に、三度目のため息が返ってきた。
 
「思い出せ、12年前のこと。
あの時お前はなんで俺を選んだ」
 
「……何言ってるんですか。選んでなんかいませんよ。あなたが私たちを殺すと思って、私だけが死ねばいいと思ったから、あなたの元へ行ったんです」
 
「なんで俺だった。俺以外にもポーポフィと、背後にはルシャンデュがいた」
 
それは、ボワーリュ・ポーポフィもルシャンデュ・セルマも正気だと思えなかったからだ。だから一番理性的な人を選んだ。
それだけだ。……それだけ。
 
「そもそもなんで俺があそこに行ったと思う」
 
「私たちを殺すためでしょう? 」
 
「龍の守護があるのにお前らを見つけられた理由は」
 
淡々とした彼の言葉に唇を噛む。
それがずっと不思議だった。
ルシャンデュ・セルマが手を抜いたのかと思ったが、音梨の家に行った時にそれは違うと分かり、ならば何故なのかずっと気になっていたのだ。
 
「お前が俺を呼んだんだ」
 
「呼ぶ……? どうやって? 」
 
思わず胡乱げな目で彼を見たが、しかしヨゼボ・フィースは目を瞑った。
話に飽きたのかと首を傾げたが、突然体中が彼の側に引っ張られるような感覚がした。
これが呼ぶってこと?
首筋に鳥肌が立つ。この感覚は以前にも感じた。
 
——それは嫌だ。
あんな風に苦しんで殺されるのだけは。
誰か助けて。お願い誰でもいい。誰か誰か。
私たちを逃して。
私の体は震え、全身が引っ張られるような感覚に鳥肌が立った。
 
私たちが異次元に逃げようとしたあの日、全てが始まったあの日、私は確かに全身が引っ張られるような感覚に襲われていた。
しかし私は首を振る。
 
「……こんなこと私してない」
 
私はこの男を呼んだりなんてしてない。
私は助けを求めたのだ。この男じゃない。
 
「お前は確かに俺を呼んだ。覚えてるだろ。だから俺は龍の守護を破ってあそこに行った」
 
男の決定的な言葉に全身の力が抜ける。
私が、"誰か"に助けを求めたから……。
 
なら私が番いでなかったなら、あの場にヨゼボ・フィースも来ず、ボワーリュ・ポーポフィも両親を追いかけなかった?
今頃生きていた?
ヨゼボ・フィースが静かな声で語る。
 
「お前が番いでなかったのなら、俺はあの場に行かずポーポフィを部屋から出さなかった。両親は生きていただろうな。お前の姉妹はお前を忘れることも頭痛に悩まされることもなく、ただ幸せな女としてルシャンデュに娶られていた。
だが、もしそうならお前は死んでいた。あの親は体が弱い上に人並み以上に聡いお前を疎んじていたから。
いつかは分からないが必ず殺されていただろうよ」
 
断定的な物言いに私は首を横に振ることができない。
それでも私は言い返した。
 
「もしそうだとしても私は、音梨も、パパもママも幸せならそれで良かったのに……」
 
涙が出てきたがグッと堪える。
だが私のせいで両親が死んだという事実は私を打ちのめした。
 
ヨゼボ・フィースはそんな私の目をしっかりと見つめた。
緑の目に、まるで森の奥深く人が到達し得ないような場所のようなその目に私が映る。
 
「お前の家族が幸せでも俺は幸せじゃない。
それにお前がいなかったら闇の魔女を止める手段は誰も思いつかずこの世界は蹂躙されていた」
 
ヨゼボ・フィースは震える私を片腕で抱き上げた。
 
「獅子の血族が束になってもあいつを殺せなかったのに、お前は倒してみせた。
あの恐ろしい魔女に勝てたこの世界で唯一の存在だ」
 
誇らしげな響きを含んだ言葉に私は首を振る。
 
「倒したのは音梨ですよ」
 
「計画したのはお前だ。
けど……確かにあの女がとどめを刺したな。忌々しいがそれは認める」
 
彼は緑の目を細めてそう呟いた。

アンカー 1
bottom of page