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26.過去からの叫びが耳を劈く

ルシャンデュ・セルマに人間について何か知っていることを聞こうと思ったが、音梨のこともあり、また機会に聞くことにした。
2人と別れて不死鳥の里を見て回る。
明るく賑やかな所だ。
だが私は賑やかな所は苦手だ。1人でいるのが何より好き。
 
獅子の里にいる不死鳥、ナンブール・スマウも静かな所が好きだと言っていたが、彼もこの里出身のはずだ。
居心地が悪かったんじゃないだろうか? それとも案外賑やかなのも好きなのだろうか。
 
「……音梨? 」
 
通りで声を掛けられた。
赤く長い髪をした、背の高い美しい女だった。
 
「あ、ごめんなさい、人違いです。
そもそもあの子一角獣じゃないし……」
 
「いえ、お気になさらず」
 
この女に見覚えがあった。
以前この里を襲撃した時にいたはずだ。
 
「……あなた、一角獣なのにツノが無いのね」
 
「出来損ないなもので」
 
「あら……」
 
彼女は同情の顔になった。
 
「大変でしょう。一角獣なんてみんな美しさと強さこそ全て! みたいな感じだし」
 
「そうですね、ロクな奴らじゃありません」
 
「お兄さん、言うね」
 
ケタケタと女が笑う。
どうやら私の嗄れた声から男だと思われたらしい。
 
「まー、私もそう思う。
……恋人をね、取られちゃって」
 
「それは……」
 
泥沼である。初対面の私に言うことでもない。
 
「あ! もう終わったことなんだけど!
ただその人今どこにいるのか……。闇の魔女の出現以降見てないから心配で……」
 
「そうですか……。
その方は不死鳥の血族なんですか? 」
 
「うん、そう。
前生からのね」
 
不死鳥はその名の通り寿命で死ぬことはなく、肉体が滅びると記憶だけを引き継いで新生児として生まれ変わる。
ある意味最も昔からいる幻獣と言えよう。
 
しかし、彼女のようにかつて生きていた時から付き合い続ける恋人同士というのは案外少ない。一度死ぬとリセットとして、関係が清算されると聞いたことがあるのだが。
そこまで想い合っていたということか。
 
「そんな長い付き合いの相手なのに……酷い話ですね。その男今頃きっとどこかで遭難して帰れないって泣いてるんじゃないですかね」
 
「そうだったら良いけれど」
 
彼女は寂しげに笑う。
なんだかんだ、まだ相手のことを好きなのだろう。不毛なことだ。
 
「シンシャ! 行くわよー! 」
 
「はーい!
私もう行かなきゃ」
 
「そうですか。ではこれで」
 
「……あの、もし相手の人を見つけたら、帰ってこないで、でも生きててって伝えたい……。ナンブール・スマウっていうんですけど、見つけたらで良いので……」
 
ナンブール・スマウ!
まさか彼が泥沼の相手だったとは。
驚きを隠しながら頷く。
 
「伝えておきますね」
 
「ありがとう! 」
 
女は呼ばれた人の所へ走っていった。
あんなに美人なのに、何故一角獣と浮気したのだろう。
ナンブール・スマウ。よく分からない男だ。
そういえばあの男、自分が恋愛沙汰に口出しすると拗れるとかなんとか言っていた。
自分が拗らせているくせに殊勝なことだ。
 
彼女の言葉の意味を考える。
生きてて、というのは不死鳥に言うべき言葉とは思えない。しかしそう言ったということは、肉体を滅びさせるなということだろう。
なぜそんなことを、と疑問に思うが、もしかしたら彼女は再び彼と今の姿で会いたいのかもしれない。
もし肉体が滅びてしまえば新生児になってしまう。
そうではなく、美しい青年の姿であるナンブール・スマウと出会いたいのだ。
 
そしてそれを一角獣だと思った私に言ったのは、彼がまだ一角獣の里の浮気相手の元にいると思っている、ということだろう。
自分の元へ帰ってくることは嫌だが、だが今の姿で出会いたい。乙女心とは複雑なものである。
 
日暮れまで里をうろつく。
ここで勝手に里を出ようものならヨゼボ・フィースの怒りの炎に油を注ぐこととなる。
冷やかし目的でルシャンデュ・セルマの勤めるランプ屋に訪れると、大きな岩を運び出しているところだった。
あれは、異次元を行き来するための岩だったような。
 
「こんにちは、何なさってるんですか? 」
 
横で作業を見守る男に話しかけた。
彼は私の着ている一角獣の服を見ると軽く手を挙げた。
 
「ああ、どうも。
いやね、我々の中でこの岩があるとまた誰かが勝手に異次元に行っちゃうんじゃないかという話になったから、里の長の家に保管することになったんだよ」
 
「おや、ダメなんです? 龍の男が妻をあちらから連れてきたと聞きましたけど」
 
「ああ、あの人がそうしてくれって。ま、邪魔だったからちょうど良い」
 
ルシャンデュ・セルマが?何故なんだろう。
闇の魔女が異次元を行き来していたから?
でももう闇の魔女はいないのに。
 
ランプ屋は作業中で閉まっていたため私はその場を後にした。
やることがなく、私が音梨と再会した湖に来ていた。空気が澄んでいて気持ちがいい。
あの時のルシャンデュ・セルマは恐ろしかった。そもそもあんな大男に私のような貧弱な小娘が叶うはずないのだ。
獅子が不死鳥の里……音梨のいる所に入らせないようにするために、勝手に侵入して暴れたのだが、別の方法を取るべきだっただろうか?
いや、思惑通り獅子はこの里に入れなくなったし更にはヨゼボ・フィースの片腕を切断することもできた。
痛い思いをしただけの価値はあった。
 
けどもうあの龍の男と対峙するのはごめんだ。
あまりの恐怖にあの後暫く悪夢にうなされたものだ。
 
ボーッと湖を眺める。
それだけで時間はあっという間に過ぎていった。
 
約束通り、日が暮れてから里を出るとヨゼボ・フィースが立っていた。
機嫌が悪そうだ。まだ怒っているのだろうか。慌てて一角獣の上着を脱ぐ。
こういうことをするとすごく嫌がるのだ。
 
「お待たせしましたー」
 
「…………今日は谷の館に泊まっていく。それでいいか」
 
「もちろん……どうしたんです? 」
 
顔色が悪い。
機嫌が悪いのではなく、具合が悪いのかもしれない。
 
「ハショウインの海辺に行った。あそこもルシャンデュの管轄だったらしい。クソ……気分が悪い」
 
ハショウインの海辺……。人間のいるところ。
やはり、獅子の血族は勘付いていた。
しかしそこがルシャンデュ・セルマの管轄なのは不幸中の幸いだ。
獅子は龍の縄張りの水辺に近づくと、かつて水責めにあって殺された血族の苦しみが流れ込んでくるらしい。恐ろしいことだ。
……そういえば私も水責めにしたな。
 
「歩けます……? 少しここで休んでから……」
 
「こんな所じゃ休まんねえよ。あそこに行って宿を取る」
 
少しふらつきながらも彼は谷の館に向かう。
まあ確かに、ルシャンデュ・セルマの近くでは休まらないか。
 
館に着き、宿を探す。
どこも混んでいるらしく、ここで三軒目だ。
 
「ウチももう一杯で……一部屋、狭い所しか空いてないんすよ。それでいいすか? 」
 
「他の宿の状況わかります? 」
 
「詳しくは……でも似たようなもんだと思いますよ。最近は谷の館が復興したってんで、人がドンドン集まって来て……なら修復手伝えってんですよ」
 
「あはは、すみませんねえ。
フィース様、どうします? 」
 
彼はさっきよりも青白い顔になっていた。話を聞いていないかもしれない。
 
「あー、お客さんお連れさんがいたのか。
どうしよう、ベッド一つかないんすよねー。2人で眠るとキツイかも」
 
「私狭いところ好きだから大丈夫」
 
最悪、ヨゼボ・フィースの眠りが深いうちに床に転がしておこう。獅子なんだから床で寝ても問題はないだろう。
 
「じゃあこれ鍵。
……お連れさん大丈夫? 顔色悪いけど」
 
「生まれつきああいう顔なんですよ」
 
私は宿屋から鍵を受け取り、ヨゼボ・フィースを促す。
このままぶっ倒れられたら私じゃ運べないからな。
 
宿屋の言うようにその狭い部屋に入るなり、彼はフラフラとベッドに近づきそのまま腰掛けた。
 
「大丈夫ですか? 何か飲み物買って来ましょうか」
 
「……目の届く所にいろ」
 
額を抑え苦しげに呻く。
龍のやった水責めとは相当なものだ。
私は彼の横に座った。目の届く所とはどの辺りだろうか。お腹が空いた。
 
「ご飯食べたいです」
 
「あー……。ここは時間になったら来るんじゃなかったか。
目の届くところじゃなくていいから自分の部屋にいろ」
 
「自分の部屋もなにも、ここですけど」
 
「悪いが俺は動けない。部屋交換しとけ」
 
「話聞いてなかったんですね。部屋一つしか取れてませんよ」
 
彼は頭を押さえて黙っていた。
しかし突然目をカッと見開き「一つ!? 」と叫びだした。
なんだ、元気じゃないか。
 
「混んでるって言ってたじゃないですか」
 
「聞いてねえ。
ああ、クソ……頼むからこれ以上頭の痛い状況を作ってくれるな」
 
「大丈夫ですか? 寝ててください。そのベッド半分どうぞ」
 
ヨゼボ・フィースは顔を上げ部屋を見渡した。
それからベッドをまるで汚物でもあるかのように見る。
 
「一つかないぞ」
 
「だから半分。でも良いですよ、夜までは私寝ないんでそれまでは全部使ってくれて」
 
「……一緒に眠るつもりか」
 
「それしかなくないんじゃ。 大丈夫ですよ、私寝相良いので」
 
「……頭が痛い……」
 
彼は再び頭を抱えた。
頭が痛い人を見るのは今日で2人目だ。
音梨の時はどうしていいかわからずみっともなく狼狽たが、今はなんだか冷静に見ていられる。
やはり音梨相手だと必要以上に同情してしまう。
 
「そんなに一緒に寝るのが嫌なら床で寝てください。でも具合悪いんでしょう? 少しは我慢してもらわないと」
 
「嫌じゃないから嫌なんだろ……。ああ……貞操観念について教えてやれば良かった……」
 
「なに言ってるんです? ほら、早く寝て、体調戻してください」
 
寝て治るものなのか知らないが。
しかし彼の頭痛は相当酷いらしい。さっきからドンドン顔色が悪くなっている。
眉間のシワも深い。
私は症状を尋ねた。
 
「……目の奥がキラキラしますか? 耳の中で音が響きますか? 」
 
「……なんの話だ」
 
「音梨が今日頭が痛いって言って……そう言っていたので」
 
「ああ……。
……潮騒の音が耳から離れない」
 
潮騒……?
 
「それに混じって悲鳴が聞こえる。水責めにあった同胞の、助けを求める声がする。
視界の端に水に沈んでいく死体が見える」
 
ヨゼボ・フィースは掠れた声でそう言うと息を吐いた。
惨い幻聴と幻覚だ。
 
「死体はまだいい。山ほど見た。
だが悲鳴は……堪えるな」
 
私はヨゼボ・フィースの大きな三角の耳を見た。これだけ大きかったら、余計な音も拾ってしまうだろう。
ベッドから立ち上がり彼の前に移動した。それから手を伸ばして耳に触れる。
ヨゼボ・フィースは驚いた顔をしたが抵抗はしなかった。
フワフワの耳を塞ぐ。
 
「音梨は目を閉じて休んでましたよ。あなたも耳を塞いで眠れば良くなるんじゃないでしょうかね」
 
「……塞いでてくれるか。腕が一つしかないから、両方は塞げない」
 
私は頷いた。
音梨の時もこうやって、冷静に対応してあげたかった。あんなに辛そうだったのに何も出来なかった自分が情けない。
音梨の代わりにこの男の頭痛を癒そう。次は彼女の痛みを和らげてあげられるように練習しないと。
 
「腕が疲れたらやめますよ」
 
彼は目を細めて穏やかに笑う。
こんなに柔らかく笑う彼を初めて見た。
頭痛というのは性格まで変えてしまうらしい。
 
「あ、でもこれじゃ横になれないですね」
 
「寝なくてもこうしてくれるだけで楽になる」
 
ヨゼボ・フィースは心地好さそうに目を瞑る。
 
「耳冷たいから。耳が冷たいと頭痛になりやすいらしいですよ」
 
ちょっとだけ耳を握る。冷たい耳が徐々に温まり脈打つのが伝わってきた。
 
「……なんか喋ってくれないか」
 
「うるさいでしょう」
 
「喋って、かき消してくれ」
 
いきなり幻聴を消すようなことを喋れと言われても何を話せばいいのか。
ハショウインの海辺に人間がいることを探りたいが、こちらが知っていることを気付かれるのもマズイだろう。
頭を捻り、今日のことを思い返す。
そうだ。ナンブール・スマウの元恋人に会ったんだ。
 
「ナンブールさんってどうして屋敷にいるんですか? 」
 
「意外な話題だな……。今更なんであいつの話? 」
 
「今日、不死鳥の里でナンブールさんの元恋人に会いました」
 
彼は目を開けて私を見た。
表情は読めないが、どうもあまり聞いて欲しくなかったことのようだ。
 
「……なんか言ってたか」
 
「帰ってこなくて良いけど生きててって」
 
「あー……。分かった」
 
何が分かったのか分からない。
私が怪訝そうに彼を見ると面倒そうにため息をついた。
 
「その元恋人ってのは、不死鳥の里の長の娘だ。で、スマウは婚約者だった。
けどスマウが、スアンにおそ……押し倒されてる所を目撃して、元恋人は浮気してると勘違いして大激怒。里の長もそんな奴に娘は渡せないとスマウを追放した。そこを俺が拾ったんだ。元々知り合いだったからな」
 
マリティ・スアン……どうしようもないトラブルメーカーである。
にしても何故彼女と! 他にいるだろうに!
私の考えが分かったのか、ヨゼボ・フィースが言葉を続けた。
 
「あいつは悪趣味じゃない。スアンと浮気なんてしてねえよ。
ただ信じてもらえなかったみたいだな。日頃の行いだろうな……いつも魔法の研究とか言って恋人ほっぽってあちこち行ってたみてえだし」
 
「ふうん、もったいないですね。あの人美人でしたし、ナンブールさんのことまだ好きみたいでした」
 
「それ言ってやれ。スマウが喜ぶ」
 
なら会ったら伝えておこう。私は頷いた。
それからお互い沈黙する。
話が終わってしまった。何か、他に喋ることがあっただろうか。
あの後、不死鳥の美女と話した後……そうだ、ルシャンデュ・セルマのランプ屋に行った。
 
「あの異次元に行ける石、長の所で保管することになるみたいですよ」
 
「話が飛んだなあ……。
ま、そりゃ良かった。あらぬ疑いをかけられてたからな」
 
そういえば、闇の魔女が異次元に行き来していたのは獅子の里の石を使ったと言われていたんだったか。見た事はないが。
あれは結局のところ本当だったのだろうか?
私が知っている限りボワーリュ・ポーポフィもとい闇の魔女に異次元に渡る程の力が残っていたとは思えない。
……まあ、考えても仕方ないことだ。
 
「ルシャンデュさんがそういう風にお願いしたって。もう異次元に行く事はないんでしょうか」
 
ヨゼボ・フィースが顰め面をし、そうじゃないと呟いた。
 
「ルシャンデュが異次元に行かない、じゃなくてお前の姉妹が異次元に帰らないようにしたんだろ」
 
「どうして」
 
「逃さないために。元の世界に戻りたいなんて言われたら堪んねえからな」
 
「えー? そうでしょうか。そうは思えませんけど……」
 
彼は眉を上げて鼻を鳴らした。
 
「だろうな。あいつの行動はあくまでも善意だから分かんねえんだよ。
元の次元に戻ったら守れない、だから異次元に行けないよう石を片付ける。行動は全てあの女のためだろう」
 
「なら良いじゃないですか。ただ音梨に甘いだけじゃ? 」
 
「甘いよなあ。甘過ぎるくらいだ。
あいつらの生活をよく考えてみろ。
ルシャンデュが稼ぐからあの女は働かなくて良いってのは分かる。だが家事もルシャンデュがやる、髪もルシャンデュが結んで、服もルシャンデュが買ってやってる。気持ち悪くねえか?
あの女普段何してるかって何もしないでただ甘やかされてるだけだ。依存させられてるんだよ」
 
そういえばマリティ・スアンにもそんなことを言っていた。
あの時は嘘だと言っていたが、やはり本気でそう思っていたらしい。
 
「悪い言い方をすればそうでしょうけど、でもそれが依存させるためとは思えないです」
 
「あの女は異次元から連れられてきて、何も出来ねえんだぞ。それなのにあいつが全部やっちまうからずっと何も出来ないまま。1人にしてみろ、里の中を移動するのがやっと、物の買い方も分からねえだろうな。
アレは無抵抗な人間を無抵抗な状態でいさせてるだけだ」
 
悪く捉えすぎじゃないだろうか。
音梨の心が不安定だからそうやって甘やかして世話しているだけかもしれない。
 
「考えすぎです。きっと、音梨は色んな目にあったから優しくしたいんですよ」
 
「あいつはそんなにお優しい性格してねえよ。
人間に異常に執着してたし、それがそのままあの女に移行したんだ」
 
そうなのだろうか。
私はそうは思えないがヨゼボ・フィースは確信しているようで強くそう言ってくる。
だが私が納得しないと分かると「お前鈍いからな……」とため息をついた。
 
鈍いとは失礼な。
私は自分が鈍いだなんて思ったことはない。
むしろ鋭い方だと思う。じゃなきゃ闇の魔女を倒せはしない。
そう反論すると彼は馬鹿にするかのようにニヤニヤと笑う。
 
「そういうことじゃねえよ。案外抜けてるよなあ」
 
「何が言いたいんですか」
 
「別に。
ま、ルシャンデュの本性はそのうち分かるだろうよ。あいつも抜けてるし、隠し通しておけるほど器用じゃない。
あの女もそのうち分かる」
 
本性とは随分な言い方だ。
しかし不安になってきた。音梨を任せて大丈夫だろうか。
 
「音梨に何かあったら……」
 
「それだけはない。ただ今よりもっとルシャンデュに惚れ込む馬鹿になるだけだ」
 
「うぇ!? どうしよう。大問題だ。
ルシャンデュ・セルマの顔につられて来たとか言ってたしなあ。この間もあの男が世界一カッコいいという話を延々してた。1時間近く。私にする話か?聞いてもしょうがないだろうに。
なのにこれ以上? これ以上惚れ込むというのか」
 
あまりのことに声に出ていたらしい。
ハッとして見るとヨゼボ・フィースが呆れた顔をしていた。
 
「うわ……そうなのか……お疲れ様」
 
「あっ、いえ、別に、面白いからいいんですけど。ただ興味のない話題を延々とされるのは疲れますね」
 
「うん。俺なら殴ってる。
……食事が来たみたいだ」
 
彼は私の手に自分の手を重ねるとそっと耳からズラした。
 
「だいぶ楽になった。ありがとう」
 
「いえ」
 
やはり冷えというのは馬鹿にできないな。
自分の耳を揉む。音梨にも耳を冷やすなと伝えておこう。

アンカー 1
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