21.足の無い男によるマーチ
そこは酷く寂しいところだった。
剥き出しの石造りの城がそう思わせるのか、それとも人のいないガランとした空間がそう思わせるのか。
だがブルートは良いところだなと思った。
ここはとても心地がいい。ここで1人になれたらさぞ気分がいいだろう。
彼は1人になりたかった。
彼が理解できる人など誰もいない。皆、よく分からないことで怒り悲しむ。
他人を理解することにもう疲れてしまった。
寒々しい廊下にブルートの杖の音が響く。
コツンコツンと規則正しい死神の足音だ。
まさか、白昼堂々敵国の王子が城に乗り込んでるだなんて思わないだろう。
驚く人々の様子を想像して彼はクスクス笑った。
彼にやっと気が付いたのか、鎧を着た騎士たちが厳しい顔つきでブルートに近づいてくる。
だが彼はそれを気にもとめず、鎧の隙間に剣を差し込みその首を刎ねていった。
ガチャンガチャンと鎧のぶつかる音がして、床に首が落ちていく。
それはまるで木の実が落ちていくようで楽しかった。
城を荒らして回ってやっと王の間に辿り着いた。
すっかり疲れて義足のつなぎ目が痛む。もういい、早く終わらせよう。
王の間に、老いた王はいた。
真っ白な眉毛の隙間からブルートを見るとフウと息を吐いた。
近くにいた護衛がこちらに走り寄ってくる。
ブルートはその護衛を薙ぎ払い、その後に来た護衛も薙ぎ払い、薙ぎ払い、薙ぎ払い、王の間に残されるのはテルグム王とブルートのみとなった。
「……な、にを……」
「いやあ、本当は義妹も連れて来たかったのですが、弟が彼女に近づくことを許してくれなくて。
仕方ないので僕一人で来ました」
遅い結婚祝いとして、最高の贈り物をさせようとしたかったのだが……どうもシェーデルは過保護だ。
ブルートはやれやれと首を振った。
「お前は誰だ」
「ケルパー国第一王子のブルートと申します」
ブルートは王子らしくお辞儀をすると、素早く剣を構えてテルグム王の首に突き立てた。
王は暴れるが、年老いたその体では抵抗らしい抵抗もできなかった。
「なぜ、こんな、こと、を」
「お土産ですよ。
敵国の将軍の首程度じゃ満足してもらえないようなので、敵国の王の首なら満足してもらえると思いまして」
全く、トレーネは我儘だな。とブルートを心の中でため息をつく。
ー「どうせ、敵国の将軍の首などしか用意できないんでしょうね。私は血で汚れた物など欲しくありません」
そう言っていた。血で汚さずに殺すのはどうすれば良いのだろう?
無理難題を言う奴だ。可愛げのない ……。
「でも仕方ないですね。惚れた弱みというやつです」
「は、」
テルグム王は呆然とした表情になった。
その表情じゃ締まらないよなあ、などと思いながら首に突き立てていた剣を思い切り引き抜いた。
ゴボゴボと音を立てながら血を吐く王。
確かに「サングイス」と言うのが聞こえた。
テルグム王の血が飛び散りブルートにまでかかった。
トレーネは血が嫌いだ。
しょうがないなあ。ブルートはそう呟いてから首を拾い、王の間から離れた水場でよく血を洗い流した。
洗っている間彼は歌を口ずさんでいた。
男が家族や友人の為にという大義名分のもと争いに参加していく歌だ。
ブルートはこの歌が好きだった。最後彼は恋人を思いながら死んでいくのだが、本当に恋人を好きならば死ぬのではなく、戦争に行かず金でもあげていればいいのにそれをしないで彼は死ぬ。
単に彼は戦いたかったのだろう。そこに親近感が持てた。
歌い終わる頃にはすっかり血は洗い流せた。
断面はどうしたって血が出てくるが、そのうち固まるし大丈夫だろう。
そう判断して彼は首をかがけた。
間の抜けた老王の顔。
彼女が喜んでくれると良い。