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06.転調

シェーデルが公務に戻ったあと、シェーデルの贈り物を開けることにした。
記憶のあった時のウェーナは知らないが、記憶の無い今のウェーナは彼のことを憎んじゃいない。
彼を傷つけるようなことはしたくない。
引き出しを開け、可愛らしい小箱を開ける。
……中を見た時思わず声をあげそうになった。

バラバラに分解されていたのだ。
執念すら感じるほど、丁寧にパーツパーツを分解しブローチの台座はそのままに石だけが外してあった。
ウェーナはそんなにもシェーデルが憎かったのか、と膝から崩れ落ちそうにる。
乱暴な面はあるが、私を気遣ってくれる優しい人でもあるのに。

残りの小箱も開けていく。
どれも同じようにバラバラになっていた。 これでは身に付けることなど出来ない。

ただ……気になるのは何故か小箱ごとに色分けされていることだ。
赤い石、青い石、緑の石……と分かれて小箱に入れているのは、嫌がらせや鬱憤を晴らすにしては丁寧だし意味がわからない。
それから組み立て直した時に明らかに元に戻らないほどパーツが少ない点。これも気になる。

とにかくどれか一つでも直せないだろうか。
誰かにバレないように……シェーデルは勿論トレーネにバレるのは特にまずい。

小箱の下に隠すように置いてあったペンチ(恐らくこれで分解していたのだろう)を手に取りなんとか直そうとするが……難しい。
破壊するのは簡単だが直すのは骨が折れる。
修理に出せば良いのだが、トレーネの説明によると私が何にお金を使おうと自由だがそれは全て記録しなくてはならないという。
そうなると私が宝飾品を修理に出したことが記録に残ってしまう……それは困る。
どうしたものかと引き出しを漁っていると、袋に入ったネックレスを見つけた。

いや、ネックレスだろうか? デザイン性は皆無だ。
赤い石が1つ、その横に黄色い石が3つ、青い石が3つ、緑の石が1つ、更にその横に紫の石が1つ、
計 9つの石が連なっているだけのものだ。 
色味が綺麗だとも思わないし、子供がビーズで作ったかのような稚拙なものだ。

何故こんなものが?
まさか私はシェーデルから貰った宝飾品を分解して自分好みに作り直していたのだろうか……そうだとしたら可哀想なくらいセンスがない。
それともこれが王族のセンス……なのだろうか……。ハイセンスすぎて記憶の無い私ではついて行けない。
とにかくこれはバレないようにしないと。私はそれらを引き出しの奥にしまい直した。

* * *

とんでもないものを見つけ冷や汗をかいた私はトレーネにお願いし、湯浴みをすることとした。
サッと汗を流してしまおう。

わずか10分ほどで用意された浴室で体を洗っていると背中に何か違和感を感じた。
背中だけザラザラとしている。
ふと、部屋に1つしか鏡がないことが気になった。

湯からあがり、トレーネに部屋に姿見を持ってくるように頼む。
彼女は「あなたがこれを片付けてと言ったんですよ」と怪訝そうに言っていた。

それには理由があったんじゃないだろうか。
全員を部屋から下がらせ、服を脱ぐ。
私の予感は的中した。

​まず目に入ったのは太ももの大きな痣だった。
おぞましい青黒い色に変わっている。
それから背中を鏡にうつす。こちらはもっと酷かった。
長く赤い線がいくつも走って、皮膚は捲れ、変色し泡のようになっているところまである。 
私は腕を伸ばし、そっと傷を撫でる。もう痛みはない。
しかしこれは一体?

まさかシェーデルが? いやそんなわけがない。そんなことする人じゃないだろう。
それに日常的に付けられていたならば痛みは残ってるはずだ。
これは国を出る前までの……そうだ、ウェーナのロクでもない祖父が付けた傷じゃないかと推測する。
私の父にまで手を上げ殺したのだ。孫に手を出すのはあり得ない話じゃない。

これが、私がシェーデルを受け入れなかった理由なのではないだろうか。
背中を見せるような服は受け取れなかった。
この傷を彼に見せたくなかった。
そう思えば辻褄が合う。
私が使用人の手を借りないで着替えていたというのもこの傷を見せないためだったのだろう。

それにしても、そうだとしても、私にはまだ謎が多い。
この傷は単なるきっかけに過ぎない気がした。

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