かわいい格好(ウォマとハララカ)
ウォマは己の姿を鏡に写し、ため息を吐いた。
彼女が着ているのは白いふりふりのネグリジェだ。
ズグロがどうしてもと言うので着てみたは良いが……。
「似合わない」
いつのまにか後ろに立っていた恋人の無慈悲な言葉に羞恥で顔が赤くなった。
ふりふりの格好はウォマに似合う訳がない。
胸が大きいからなのかフリルがあると膨らんで見えるし、そもそも汚泥で生まれ育った彼女には白のレースは眩しすぎた。
「こんな格好出品された時以来だよ」
「ヤフオクに?」
「違う奴隷商人に売られたとき。そうやってすぐメタネタを。
まあいいや、似合わないのは分かってましたし」
とっとと着替えようとボタンに手をかけるがその手をハララカに止められる。
「……あのー?」
「着替えるつもりですか」
「そりゃそうでしょ……落ち着かない」
恥ずかしいし。とウォマは呟く。
「……今日からこの格好で寝たら?」
思わぬ言葉にウォマは「は?」と彼の顔を見上げた。
……ハララカの目が珍しく爛々としている。
「なんで。
この格好似合います?」
「全然似合ってないです」
「なんだお前」
似合ってないなら着替えさせてくれ。
彼女はハララカの手を振りほどいて着替えを続行しようとした。
だが再び止められる。
「ちょっと。なんですか」
「もう少しその格好でいたらどうです」
「嫌だよ……。
似合ってないでしょ」
「似合ってないです」
けど、とハララカは言葉を続ける。
「すごく可愛い……」
予想外な彼の言葉にウォマは度肝を抜かれた。
可愛い? この格好が?
「えっ、いや。何を。バカなことを」
「可愛い」
からかっているのかと彼の顔を見つめるが、その瞳は真っ黒かつ真剣そのものだ。
若干頬が赤くなっている。本気で言っているようだ。
それに気付いたウォマは益々顔が赤くなる。
「顔赤くなってますねえ?」
「そ、そっちこそ!」
「興奮しただけです。あー……良いですね。可愛い」
「変態……!」
「何を今更」
ハララカが手を伸ばしウォマの体をギュッと抱きしめる。
彼女はなんだか色々、付いていけないのだが……抱きしめられたのが結構嬉しかったので為すがままになることにした。
「毎日は嫌だけど……たまになら、着ても良いよ」
「せっかく買ったなら毎日着ないと勿体ないですよお」
「買ってない。ズグロちゃんに貰った……」
途端ハララカの腕に力が入る。
「は? なんであのクソ女の名前が出てくるんです」
「怖っ」
その顔は魔族の王すら裸足で逃げ出すだろう。
「今すぐ脱いでください。新しいの買いに行きます」
「なに? もっとエロいやつ着せたいの?
胸元開いたような……」
ウォマはハララカを落ち着けようとわざとからかう。
だが彼は僅かに顔をしかめるばかりだ。効果はあまりなかったらしい。
「……ウォマさんは勘違いしてるようですけど、俺はそんなに胸に執着してません」
「お尻?
こっちはあんまり大っきくなくて申し訳ないね」
「ウォマさんだったらなんでも良いです。
それより早く脱いで。脱いだらこれ燃やします」
ハララカはネグリジェのボタンに手をかけると慣れた手つきで外していく。
その行動よりも、ウォマは言われた言葉に頭がいっぱいになっていた。
「わ、私だったら……なんでも……?」
「これ破いていいですかあ?」
「やめてよ! もう分かったから……」
もう一度言って欲しかったのだがハララカはとにかくズグロから貰った服が許せないらしく、脱がすことに夢中になっている。
仕方がない。ウォマは手早く脱ぐと外出着に着替えた。
「はい、これでいいでしょう?
どうせ買ってくれるならナイフとかの方が嬉しいんですけど……」
「そんなの自分で買ってください」
ツンとした言葉だが、ウォマの手を優しく握り引いてくる。
可愛い奴め……彼女はフフフと笑みをこぼす。
「なんですか気持ち悪い」
「別に。
可愛いの買ってくださいね」
「どうせ似合わないんだからなんでもいいでしょう」
「言ってることめちゃくちゃだなあ」
呆れた声で呟くも、どうしても笑みが浮かんでくる。
自分は今どうしようもなく幸せだ。
ハララカもそうであればいい。